どんな恨みがあるものか
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 
 


先週末の列島は、それはそれは凄まじい風雪と嵐に見舞われたのだが、
それと大して違わぬ規模と威力の、最強寒波と爆弾低気圧とが、
またぞろ日本を襲っておいで。
先週のは都知事選にモロにかぶって論議を醸しかけてたそうだけど、
そんなの以上に今週のは大問題。
だって、選りにも選って、


  聖バレンタインデーに かぶってしまっているのだものっ!




私立大学の入試も最高潮なら、
三年生のお姉様がたも専任の先生がたも、
それはそれは胃の痛い想いをなさってる二月じゃああるから。
たかだか恋愛ごっこのセレモニー、
1日やそこら、日延べされたっていいじゃない。
贈り物のマフラー、仕上げに手を入れられるってもんじゃない。
お手製のチョコレート、
何ならケーキにバージョンアップさせられるチャンスじゃない、と。
物は考えようって理屈を持ってくりゃ、
何も当日にこだわる必要はないじゃないのと、

 【 判っちゃいるんですけどもねぇ。】
 【 うん…。】
 【 ………。】

この凄まじい豪雪に、先週の大混乱をさすがに思い出したものか。
三華様たちの通う女学園は、
警報が出るまでもなく
“休校にします”というお達しを生徒全員へとメールして来たほどで。
車での登校を原則認めていないその上に、
なだらかな坂の上、丘の上にあるという立地から、
少しでも路面凍結すれば、
通学路はお嬢様たちの上げる悲鳴で
阿鼻叫喚の地獄絵図になるのは明白なのでという、
女学園側の心遣いはようよう判るのだが、

 【 学校が休みともなれば、
   それだけ苛酷なお外だってことにもなりますもんねぇ。】

インフルエンザによる欠席が多ければ、学級閉鎖になるのと同じ。
やった休みだと遊びに出掛けるなんて以っての外で、
人の多いところには近づかず、
極力お家で過ごしなさいねという対処なのであり。

 【 そりゃあまあ、
   アタシらの想い人さんたちは学生じゃあありませんけれども。】

 【 ですけどねぇ。】
 【 ……。(頷、頷)】

豪雪ではあれ八百萬屋は営業中で、
この雪のせいか鍋焼き系の配達注文が多いのだとか。
美味しいもので有名なのも善し悪しだよぉと、平八が呟けば、

 【 兵庫も…。】

何しろお医者様ですから。
冷え込みから風邪を引いたらしいとか、
急に胸が苦しくなったとかいう、内科・循環器系統の急報から、
凍った坂道で転んだとか、
雪の下にマンホールがあって思い切りすべったとかいう、
外科系統の急患まで。
そりゃあもうもう引っ切りなしに、
固定電話もスマホも鳴りっ放しなようであり。
唯一、久蔵しか番号を知らない専用回線になってるガラケーはガラケーで、

 【 何度掛けても うんともすんとも…。】

おおう、こうまで判りやすく口にするということは。
ええ、こっそり怒っておいででげすね。

 【 そういうシチさんのところこそ。】
 【 いやまあ、
   勘兵衛様の場合は不規則が当たり前だから。】

殺人事件だか強盗事件だかに専従状態なんでしょから、
交通整理とか、事故処理とかに駆り出されてないだけ、
すべって転んでないかなとか案じなくてもいいってもんですがねと。
どこか投げ出すような、はは…という乾いた笑いようをするのが、
却って心痛を抱えておいでなのが透かし見えるよで、
何とも気の毒でならぬのも相変わらずであり。


  せめてお天気さえ尋常だったなら…。


 【 久蔵殿、去年はブラウニーを焼いたから、
   今年は基本に戻って生チョコを作ったのにね。】

 【 シチさんこそ、大物のカーディガンを編んでませんでしたか?】

 【 平八、店は?】

 【 うーっと、それがあのあの、
   そろそろ期末テストじゃないのかって、出禁なんです。】


お天気さえ問題なかったならば、
相手のお家へ出掛けることも出来るのにね。
たとえ逢えなくとも、じゃあこれと
今日渡すことに意味のある、心づくしの贈り物、
机の上とかへ置いとけるのにね。
何も今日にこだわらずともっていうのは、
重々判っているんだけれど。
でもね、
そういうささやかなことを覚えてるのってのも、あのね?
大事なんだな、ヲトメには。
忘れられても平気平気と言いつつ、
ちょっとだけ“ちくん”って痛かったりするんだな。

 【 …え? あ、ちょっと待って。】
 【 どしたの、ヘイさん。】
 【 ??? …あ。】
 【 久蔵殿?】

同時におしゃべり出来るぞモードで、
チャットよろしく言いたい放題していたお嬢さんたち。
だってのに、
まずはひなげしさんが、誰かに呼ばれたらしくって。

 【 …あのあの、私ちょっとオチますねvv】

おややぁ?
さては、ゴロさんが手隙になりでもしたか?

 【 ……。】
 【 久蔵殿も? 兵庫さんがお家に来ちゃったって?
   ご近所のご隠居さんの往診のついでに?
   ああ、そんな、早く逢いにお行きなさいな。
   渡すものがあるのでしょう? 忘れちゃダメだよ?】


 「………。」


………いいなぁ、二人とも。
まったくもうもう、正義の味方の身内はつらいやねぇ。
国家公務員だからしょうがないけどサ、と。
スマホを切ると、ベッドにぽそんと寝そべった白百合様。
格子がシックな窓の外には、
音もなくのしんしんと、止めどなく雪が降り続いており、

 “勘兵衛様、寒いの苦手なのに大丈夫かなぁ。”

まま、昔に比べたら機能性インナーも凄いのがあるんだし、
使い捨てカイロだってあるんだし?
それに、寒い中の張り込みとかじゃなくて、
情報の精査の末にここぞって絞ったところのガサ入れとか、
黒幕クラスの大御所へ、
そんな詰まらない小者を匿うのはおよしなさいと交渉に行くとか、
そういう役どころが多いって、良親様が言ってたしな。
格闘するよな乱闘にも、相変わらず現役で飛び込むそうだしサ。
元気なのはいいけど、そろそろ寄る年波も考えてくれないと、

 「子供が出来て大きくなって、
  なのに、鬼ごっこさえ出来ませんてくらい、
  体がぼろぼろになってたんじゃあ困るじゃない。」

物騒な独り言を口にして、むうと頬を膨らませた白百合さんだが、
そんなお嬢様のお宅へも、
何物かに盗聴器を取り付けられたらしいとの報を受け、
日本画の窃盗団を相手に探索中の某警部補殿が
雪の中をやって来るまで、あと十数分……。






    〜Fine〜  14.02.14.


  *こういうメジャーな記念日とかイベントほど、
   当たり前には一緒にいられない難儀な恋人さんたちですが、
   日頃の活躍へ神様がご褒美をくださったものか、
   今年は向こうから来てくれるパターンで、
   何とか甘い1日を過ごせそうなお嬢さんたちなようです。
   言っとくけど、
   放っておくから危ないことへ首を突っ込むんだぞ、保護者の方々。

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